調色とは何か?

2016年6月24日

調色とは何か?

調色のご説明の前に、まずお伝えしなければならないことは、『程度の差こそあれ、真珠は何らかの漂白処理をされている』ということです。真珠は貝から採り出した時から既に銀白色に輝くものだと思われている方も多いと思いますが、そのような真珠は滅多に存在せず、多くは染みや汚れを持っており、そのままでは宝飾品としての価値が十分に発揮できない状態で貝から出てきます。
ですから、おそらく8割以上の真珠が多かれ少なかれこの染みや汚れを落とすために何らかの漂白処理を施されています。あこや真珠というのは本来ほんのりとさす淡いピンク味を持っていますが、漂白の段階でそのピンク味まで漂白されてしまう場合があります。それを補って元の状態に戻してあげる加工が調色です。

調色の効果

このように、真珠は染み、汚れを取り除いた上で調色によってピンク味を元の状態に戻してあげることで、宝飾品としての輝きを最大限に発するようになります。調色は物理的には染色に属する加工ですが、真珠の表面に色を着けるわけではなく、真珠層内部に染料を浸透させますので、擦ったりして色が落ちることはありません。あくまでも元のピンク味を補う加工ですので、調色によってその真珠が持つ潜在的な美しさを最大限に引き出すことができますが、それ以上に品質を上げることはできません。また逆に、調色によって真珠の価値が下がるようなこともありません。真珠層の巻き厚や照りが元々良い良質の真珠は調色によってその輝きを如何なく発揮するようになりますが、元々の品質が粗悪な真珠はいくら調色を施しても綺麗になることはありません。

無調色の落とし穴

最近は花珠鑑別書をはじめとして各真珠鑑別機関の鑑別書がついている商品が多くなり、無調色の真珠の場合は無調色である旨が明記されているものもありますので、世間一般で逆に調色が何かいけないことのように捉えられている節があります。これは真珠業界がお客様の夢を壊さないようにとの配慮で、長年調色についての明言を避けてきたことにも原因があるのですが、調色の必要がないような真珠はごく一握りの高品質真珠だけなのですから、多くのあこや真珠にとっては調色は欠かせない工程と言えます。無調色を売りにしている真珠の多くは漂白によりピンク味が完全に落ちてしまって真っ白になっています。そのような真珠には真珠本来の温かみが全く感じられず、せっかくの真珠の魅力が半減してしまっています。このような、本来調色を施した方が綺麗に仕上がっていたであろう無調色の真珠を選ぶよりは、適切な加工により調色された真珠の方が温かみがあり、真珠本来の輝きを楽しむことができます。あこや真珠は、本来黄色の色素を持っています。真珠層の巻きが厚いほど黄色味が強く出る傾向があります。調色をすれば黄色味を相殺できますので過度の漂白は必要ありませんが、無調色として製品にするためには真っ白になるまで漂白をするため、真珠層が痛んでしまっているものも多いです。あるいは黄色味があまり出ない巻き厚の薄い物を無調色用として使います。ですから、本当に品質が良くて無調色で製品にできたものと、無調色という名前にするために無調色にしたものでは全く質が違います。もちろん前者は希少で、安価で流通することはありません。真珠全般に言えることですが、希少なもの、品質の良いものはそれに比例して価格もそれに見合った価格であるのが普通です。

真珠選びの前に

このように、適切な技術により調色が施された真珠の方が真珠らしさを発揮していることも多いですので、真珠を選ぶ時にはあまり調色、無調色にこだわり過ぎず、まず真珠として美しいかどうかを基準にして選ばれると良いでしょう。調色は一般的に色褪せしやすいと言われていますが、真珠層の巻き厚が厚ければ過度に心配する必要はありません。真珠は調色の有無にかかわらず光によって褪色する傾向がありますので、保管時にはケースに入れて光に当てないようにしておくことが大切です。(通常のご使用において光に当たる程度は問題ありません。)調色された真珠であっても、真珠層の巻きが厚く、キズが少なく、形が整っている真珠は大変美しいものです。
調色は何ら真珠の価値を下げるものではありませんので、調色の有無も大切ですが、それを踏まえた上で、真珠としてのトータルの品質、美しさを評価することが何より大切です。単に調色をしていないだけなのか、調色の必要がないのか、の違いはとても大きな差です。その辺りの専門的な見極めこそプロの役目です。ですから真珠選びの前にまず、真珠についての知識、経験が豊富なお店を選ぶことが大切です。調色についても疑問があれば遠慮なく聞いてみると良いでしょう。品質に自信を持っているお店なら、きっと丁寧に答えてくれます。最後にもう一度、調色は漂白が必要なあこや真珠には欠かせない技術で、我が国で真珠養殖の歴史が始まって以来今日まで100年以上もの間、各真珠加工会社が切磋琢磨して築き上げてきた、日本が誇る真珠加工技術であるということをお伝えし、このコラムを終わります。